~市場の創造~
アイデア&言葉のINNOVATION
どこで閃いたのか?
なぜ閃いたのか?
カップヌードルのINNOVATIONについて考えてみたいと思います。
僕が確か中学2年生の時ぐらいですから(ずいぶん昔ですね)約40年前の大きなINNOVATIONです。
親父が百貨店の食料品担当でしたから鮮明に覚えています。会社から戻って「英明。
これ凄いよ」と言ってくれた一つのカップヌードルを見て驚き、お湯を入れて驚き、フォークで食べて驚いた事を覚えています。ラジオの深夜放送を聞きながら「試験勉強」しつつ夜食にラーメンを食べていた時代です。
INNOVATIONとは商品の価値軸をずらし「新市場」を作る事です。その価値軸のずらし方が難しい。
2段階に価値軸をずらして行ったカップヌードルの軌跡を追いかけていきましょう。
まずは即席ラーメンは①~⑤で構成されています。(今でも基本的には変わらない)
①鍋でお湯を沸かす
②麺をゆでる
③スープを入れる
④どんぶりに入れる
⑤お箸で食べる
第1段階ではまず「チキンラーメン」の登場です。
これは食べ方のパターンが短縮化されています。
①やかんでお湯を沸かす
②どんぶりにチキンラーメンを入れる
③お湯をかける
④お箸で食べる
ポイントは麺に味を付けてしまったということですが、「即席ラーメン」の袋からは抜け出していませんから大きなINNOVATIONではありません。
チキンラーメンを「すぐ美味しい」「すごく美味しい」と歌いながらお湯をかけていました。今でも無性に食べたくなる時があり「卵」を入れて食べています。これが美味しいのです!
脳にその当時の記憶がインプットされて食べると「味」を楽しむというより「想い出」を楽しむ食べ物になります。僕にとっての「チキンラーメン」はまさにタイムマシン食品です。味覚を与える食べ物が「記憶」を呼び覚ますというのは面白いですね。他にもレトロな食べ物にはこの「価値」がついていますよね。
そしてカップヌードルの登場です。
これは大きなふたつのINNOVATIONです。
まずは「機能」が大きく短縮されました。
①お湯を入れる
②フォークで食べる
食べるまでが2工程です。
味付け麺+カップがラーメン袋を兼任しています。
そして言葉のINNOVATIONです。
「即席ラーメン」が「カップヌードル」になって世界にその市場を広げていったのです。新しい「市場」をカップヌードルは作ってしまったのです。
このINNOVATIONがもたらしたものは
①どんぶりからカップへ
②お箸からフォークへ
③お湯さえあればいつでもどこでも
④国境を越えて受け入れられる「食べ物化」
*日本独自の「どんぶり+箸」の規制を「カップ+フォーク」で規制を枠を壊して
インターナショナルな食べ物に進化したのです。
「機能」と「ネーミング」がもたらしたINNOVATIONです。
この新市場を見てみると
①宇宙食
②登山食
③非常食
*人命を守る「食べ物」にもなっています。
では
どこでこのアイデアを閃いたのか?
なぜ閃いたのか?
ここを探ってみたいと思います。
閃いた場所は「アメリカの片田舎」です。
当時、チキンラーメンを売り込むために北米にその売り先を探していました。
とある田舎町に来た時の事です。
「閃いた風景」
デニムにTシャツの青年が、紙コップにチキンラーメンを半分に折って入れ込み、その上に「お湯」をかけて「フォーク」をかけて、ザックバランにカジュアルに外で食べていた。
開発者は、多分体中に電気が走ってアドレナリンが多量に出ていたんではないかと推測します。
「そうか!こんな食べ方があったんだ!」という閃きです。
ここに大きなポイントがあります。日本で市場調査をしてもこの「閃き」には出会えなかったのです。日本では「室内で食べる軽食」という慣習や価値の中にラーメンは囲まれています。この囲いを国内で外すのは非常に難しい。(常識の枠)
アメリカはいいも悪いも「合理的」な文化で自由で物にとらわれない生活環境があります。
その事なる価値観の中で、日本から来た食べ物をアメリカの青年が合理的に食べ、それを見た日本人によってその「新価値」が発見されたのです。
一方でアメリカ人がこの青年を見たとしても「何かあまり見たことがないものを食べてるな」ぐらいの価値しかないでしょう。なぜならば同じ価値感の中で生活しているからです。
しかしまだカップヌードルは完成していません。それは「蓋」の構造が明確ではなかったのです。青年の食べるシーンは新しい食べ方を、閃かせてくれました。しかし「蓋機能」が完成されていません。これが無くては「製品化」出来ないのです。
そして新たな場所でそれを閃いたのです。
(閃いた場所)
帰国の飛行機の中です。
機内サービスで密封された「マカデミアナッツ」を見て「!」のです。
アルミ箔ト紙を張り合わせた密封性が高い蓋をカップに取り付ければいいんだ!
ここでカップヌードルが完成したのです。
どこでもだれでもカッコよく簡単に食べれるカップヌードルの誕生です。
そしてこのINNOVATIONの要素に忘れてはいけないのが「ファッション化」です。
食べ物自体が「お洒落な食べ物」に進化したのです。
(なぜ閃いたのか)
このINNOVATIONにある根源の想いは長い歴史があります。
日清食品の創業者の安藤百福氏が梅田の闇市でラーメンに並ぶ人を見て思いました。
「皆がもっと手軽にラーメンを食べられたらいいな」
この想いが脈々と企業文化として流れていたのです。
(ではここではどんな感性が使われたのでしょうか?)
このINNOVATIONはまず「思いやり感性」人の事を想う力です。
そして「創造性感性」要素を組み合わせて一つの形に持っていく感性です。
(固定観念を壊した要素)
「引く」「削る」「絞る」「外す」「ばらす」要素
鍋
どんぶり
お箸
袋
室内
「足す」「置き換える」要素
カップ
フォーク
室外
「守る」要素
麺の味付け知識経験
「組み合わせ」結果
・世界に新市場の構築
・どこの国でもお湯さへあれば食べる事が出来る
INNOVATIONは異空間で「閃き」を体験して、その製品が持つ要素を「引いたり」
「足したり」「壊したり」「反転させたり」「守ったり」してその「要素の組み合わせ」で創造されます。
このINNOVATIONにはOUT PUT 感性が使われています。
OUT PUT 感性 ⇒能動的な感性です。
A,B を感じると人は自分でも何かしら「創造する」欲求が生まれます。この感性はその創造力そのものの「感性」です。日本では誰でもが「芸術家」にはなれないと思っていますが、私の経験から言えば、イタリア人はほとんどの人が自分を「芸術家」だと思っています。彼らのオフィスや工場や部屋を訪ねるとその人のクリエイティブな個性が溢れる作品やインテリアを見る事が出来ます。小物の配置、絵画の選択、照明、個性があってとても楽しい。日本のライフスタイルや仕事のオフィスも大いに見習うべきところです。豊かな感性は日常の習慣の織物ではないでしょうか。
ちなみにフランス人はほとんどの人が自分は「哲学者」だと思っているふしがあり面白いですね。
さらにこのOUT PUT 感性は二つに分類できます。
1 想いやり感性 (恋愛感性)
想いやり感性は相手の深層心理を深く読み取る力を持つ感性です。他人に対して想いやり深い人はこの感性力が強いのです。よく「場の雰囲気が読めない」とかいいますね。人間が集まると「雰囲気」という目に見えない「感じ」が発生します。そこでふさわしい会話や振る舞いが要求されます。これは相手の事をどれだけ深く想っているかという感性力に他なりません。恋愛感性と呼ぶのも好きな相手の心の想いを、深く洞察している行為が思いやり感性そのものだからです。貢献や献身という行為も重要なポイントとなる言葉です。
感性マーケティングではこの感性力でマーケットインの思考でお客様とのコンタクト手段を展開していきます。
2 創造力感性
創造力感性はまだ見たこともないようなものをクリエーションする力を持つ感性です。クリエイターの感性が指示されるのは、生存中か死後かいつの時代になるかわかりません。ある時代に人々に支持されているクリエイターが持つ感性です。感性マーケティングでは、この感性力でプロダクトアウト思考の新商品開発を展開していきます。エルメスやフェラリー が持つ「審美眼」が重要な役割を持ちます。絶えず時代は変化します「変化する事だけが変化しないこと(ドラッカー)」です。変化する時代に対して有効なのは「感性」に他なりません。
しかしINNOVATIONにもライフサイクルがあります。
この場合は新規参入の壁は低いので同じ機能を持つ商品があらゆる分野から参入してきました。最初は市場を作ったリーダーですが、絶えず新商品の開発はかかせません。
参入壁の高さは「技術力」の高さに比例します。「技術力」が高ければそれだけライフサイクルは伸びていきます。
カップヌードルが他社に及ぼす最も大きな参入壁は「カップヌードル」というネーミングではないかと想います。
言葉のIMPRESSIONも大きな「参入壁」になりえるのです。
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