最後に「STORY性」です。
もし「はやぶさ」が何のトラブルもなく正常に戻って来ていたとしたらどうでしょう。100%完璧に計画通り推移していたらこんなに話題にもならず「老若男女」が共感し感動したという結果にはならなかったと思います。
はやぶさの「STORY性」が人々の共感や感動を作り上げたのです。
トラブルの連続でした、見方を変えると「トラブルを克服するために」はやぶさは打ち上げられたのかもしれないという程のトラブルの連続です。はやぶさのSTORYはトラブルの克服です。
推移を見てみましょう。
2003年5月9日打ち上げられました。
① 打ち上げ直後にイオンエンジンが4基中1基不調。
② イトカワに着陸の際に姿勢制御装置が3台中2台故障
③ イトカワ着陸直後に燃料漏れを起こし音信不通となる
⇒7週間も連絡が途絶える。
④ 12台の姿勢制御エンジン故障
⑤ 期間中 イオンエンジン故障
*4年間の予定が7年間60キロを航海して帰還
2010年6月13日帰還
4年間が7年間に延長されても帰還した「はやぶさ」は素晴らしい技術と情熱に支えられていたんだなと改めて感動します。
実はサンプラ―ホーンも実はパチンコ玉の球体は発射されずに地面にタッチしただけだった事がのちに判明されたのです。しかしタッチの反動で採集自体は僅かな鉱物の採集に成功していました。
どうですかこのトラブルの連続は?しかも一つでも発生したトラブルを克服しなければこの物語は成立しなかったのです。「はやぶさ」は帰還できなかったのです。
人々が感動し共感した「源泉」はこの幾度も幾度も襲ってくるトラブルをJAXAと「はやぶさ」が一体となって克服して帰還したことです。それを人々は「ライブ」で見ることが出来たからです。
JAXANに届いたメッセージを見てみましょう。
「遠い遠い空の彼方にいる「はやぶさ」の事を想うと、切ないような泣きたくなるような不思議な気持ちになるのはなんでだろう。
帰ってこれるといいね。」
「もう体中ボロボロなのに必死で帰ろうとする「はやぶさ」と、必死で返そうとする担当者に涙が止まりません。
もし帰ってこれても、大気圏で燃え尽きてしまうんでしょ。
かわいそすぎる。」
「ニュースで見て泣きそうになったよ。
よろよろでもいいから帰ってこいよ。
活動をやめるのは地球でな。」
就職活動で失敗し続けて、あきらめかけていた女性が「はやぶさ」の事を知って「はやぶさがあんなに頑張っているんだから自分も頑張らなきゃ」と想い直し気持ちを立ち直らせて就職に成功したというようなエピソードもありました。
「はやぶさ」への想いの深さが良く分かります。
人々の「はやぶさ」へのイメージが出来上がって行きました。
① 体は満身創痍
② 困難に負けずに立ち向かっている
③ 決してあきらめない
④ 担当者もあきらめない
⑤ 戻ってきても大気圏で消えてしまう
⑥ 健気である
⑦ 勇気をもらった
⑧ 私も頑張られる
⑨ 私も応援する
⑩ 帰還を祈っている
⑪ 友人である
⑫ 近い存在である
人々と「はやぶさ」はそのSTORYが鮮烈で、しかもそれがゲームではなくてライブで発生しているために長期間の「同期化」が出来たのです。無機質な機械が人間に「勇気」を与え共感して感動させたのです。
ここでポイントにしたいのが「STORY性」です。
いくら素晴らしい新規開発の商品でもSTORY性が無ければその感性は人々には伝わらないということです。「はやぶさ」の場合を見てみましょう。その目的と数々のINNOVATIONは宇宙開発に携わっている研究者やアマチュアのかたにとって共感して感動するに値するものだと思います。しかし宇宙開発に関係のない一般の多くの老若男女がその技術INNOVATIONだけに感動するわけではありません。
「はやぶさ」の場合は「困難を克服する」という大きな動機づけをもつSTORY性が生まれたのです。
このSTORY性が一般の人々の心の琴線に触れたのです。そして何とか帰還させようと言うJAXAの熱意とそれを健気にやり通す「はやぶさ」と「一般の老若男女」がその感性を「同期化」させたのです。
感性マーケティングにおいては「STORY性」を非常に重要視します。しかもそれは、心にフックさせる要素がなければいけません。フックとは心の印象に強く引っかかると言うことです。
「はやぶさ」がなんのトラブルもなければこのSTORY性は薄れてフックする事はありませんでした。しかし「数々の困難の克服」が大きなフックとなって人々の心に引っかかったのです。
例えば「都市伝説」がそうです。都市伝説はSTORY性があり、「えっ本当」「まさか!」が必ずあり、その事を人に伝えたくなる要素が必ずあります。何かフックがかかっている都市伝説は心から消える事はありません。
感性マーケティングにおいては「フック」が不可欠要素です。「フック」がかからなければ、商品と消費者の間は「友人以上 恋人未満」なのです。
川口教授が書かれた「はやぶさ、そうまでして君は」の中に深く印象に残る不思議があります。
「11個のリチウムイオン電池セルのうち、4個は過放電によって使い物にならない状態でした。ところが「補充電回路」が「ON」になっていたため、残りの7個は無事で、行方不明の間も微弱電流が少しずつ充電されていたのです。
ところが、補充電回路を自動的にONにする指令は、プログラムのどこにも書き込まれていなかったのです。「はやぶさ」には搭載されていなかったはずの機能なのです。「はやぶさ」が自分の意思で危機を回避する為に補充電回路を
ONにした?それは、科学の原理としてあり得ない事です。では、なぜ?いったい何が起こったのか?技術者としては、説明できない何かがおこったととしか、考えられませんでした。」
どうですか?
そして「はやぶさ」は無事に地球に戻ってきました。
大気圏に突入する際に「最後にもう一度地球をみせてやろう」と川口教授をはじめスタッフの方が地球の写真を撮るように指示しました。それが最後の電気エネルギーだったのです。採集したサンプルカプセルを地球へ向けて発射させて、後は燃え尽きるけの「はやぶさ」にお礼がしたかったのです。
この画像をみて僕は涙が出ました。「はやぶさ」が送ってきた画像は数枚ありましたが画像が不安定で殆どなにか解りませんが最後の一枚は、地球が半分だけ写っていました。これが「はやぶさ」が最後に見た「地球の姿」だったのです。そして彼は寡黙に消えて行きました。
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