QR システムの功罪


僕は1996年et vous hommeの責任者でした。

ファッションの言葉に「MODE」という言葉が良く使われた時代です。ファッションはモードが普遍化したものだという解釈です。モードは最先端のファッションの位置づけです。日本中にこの流れが大きな潮流として受け入れられてていた時代です。

この時代を振り返ってみたいと思います。ファッション業界はこの10年間すざましい勢いで変化しています。この中に様々なビジネスや企画マーケティング

そして世の中の変化の推移が見えてくるのではと思います。なぜならファッションは政治や経済の影響をとても受けやすいのです。これからお話しする中に

読者の業界のヒントになるようなことが必ず潜んでいると思います

 

この時代は「QR」の全盛期です。QUICK RESPONSE つまり「売れたものを追加生産」して売り上げを拡大して消化率を高めるという技法です。もちろんPOS(店頭販売情報システム)から情報を取り出して解析していくのです。日本には四季がありますから同じものが永遠に販売出来るものではありません。売れたらいち早く追加生産して間に合わせなければいけません。ここで3つのクリアすべき問題があります。

 

①原料です。他のブランドとのオリジナルの素材を開発していましたから原料を見込み発注して在庫として確保していないといけません。売れてからの原料生産では売れる時期が来年になってしまいます。

 

②工場です。工場の生産キャパを抑えなければいけません、日本のメーカーは基本的に自社工場を持っていません。OEM生産が中心なのです。生産が忙しい時期はほぼ決まっています。秋物ですと5月から8月 春物ですと11月から2月

最盛期には工場はOEMの受注が一杯になってしまいます。工場の生産キャパを確保しなければいけません。

 

③デザインです。素材やカラーやトレンドの情報は1年前から多方面から入ってきます。情報源はパリコレやミラノコレクションの著名なブランドの企画です。その企画はデザイナーが世の中の流れに対する思いを表現する方法として色や素材やデザインで表現していくのです。ブランドごとのテイストは違いますがヒットする売れ筋は「同質」のデザインなのです。

 

この売れ筋の商品をいかにキャッチしていくのかここが大きなポイントになります。最も早いQRの方法はすざましく、「売れ筋の市場を食べつくして行く」ようなシステムでした。

 

①パリコレで新作の写真を撮る

②デザインをおこして日本にFAXで送る(まだEMAILはありません)

③パターン仕様書をおこして工場に送る

④生産にかかる

⑤店頭に並べる

 

例えばABCのデザインをまだ暑い8月の中旬には店頭に置きます。パリコレのデザイン全てが売れるわけではありません。雑誌がどのデザインを取り上げるかでも売り上げは大きく違ってくるのです。店頭に置いた商品とお客様の反応を見ます。ここでチェックするポイントは

①観た

②触れた

③着用した

この3つのポイントを店頭の販売スタッフに観察してもらいます。そしてABCのどれが一番ヒットするのかを判断するのです。気候でも左右しますからあらゆる情報、販売員の声 PRESSの声 他社ブランドの情報を集めて意思決定しなければいけません。意思決定者は一人でなくてはいけません、それはMDの役目です。ここで数量設計が間違っていれば販売に大きな支障をきたします。年間に4回もこのようなシステムを動かしますからアパレルは残業が多かったのも事実です。

 

そして売れる可能性が高い商品を9月に生産かけて10月に店頭に投入していくのです。プレスはこの追加生産した商品を雑誌に優先的に掲載したり人気の俳優に着せたりします。あらゆる手段を使って市場にアプローチをかけるのです。市場には大きな的があり、その中でのど真ん中に企画が当たれば100%の消化が見込めた時代でした。

 

ところがこのシステムは弊害が出てきました。そうなんです、「ファッションの同質化」が起こってしまうのです。市場で同じテイストのモノが大量に出回って個性がなくなってしまうのです。ブランドには「顧客」がついていきますから同質化を嫌う顧客も増えていったのです。

 

そしてこの2000年に携帯電話の普及が高まって行きました。ファッション市場を携帯市場の浸食が始まって行きます。年間に使用していたファッションに対する投資が携帯市場に流れていったのです。ファッション以外の強力なライバルが現れたのです。

 

このシステムを持つアパレルは今でも多数あります。しかし中身を見ると大きな変化があります。伸びているブランドは「オリジナル素材」をこだわりません。一般市場に流れている素材を使用しており素材開発へのこだわりが無くなっています。力を入れているのが企画サイクルを短くしている事です。年間12回の企画をおこないしかもなるべく商品企画を引きつけて行っています。引きつけるということは1カ月先の企画をおこなっているということなのです。短サイクルでの生産基地を確保しなければ絶対に不可能ですが、日本や中国に工場を持っている地方の企業がブランド開発をおこない、新規ビジネスとして挑戦しているケースが多く見られます。売れ筋は市場全体から情報を掴んでいきます。自社店頭での情報では遅すぎるのです。

 

価格の低下も大きなポイントとなっていますが、価格の低下は何を示すかというと「量」を売らなければいけないと言う事です。量を売るということは展開店舗を増やすことです、店舗数が増えればおのずと販売員スタッフを増えていきます。投資金額と固定費の増加を招いていきます。一方、ブランドにはファンの顧客が必ず付きます、それゆえにブランドは人と同じように老化していきく傾向なのです。なぜなら顧客をイメージした商品企画が主体になるからです。「量」を低価格で売り続ける事は大きななリスクを含んでいるのです。QRを主体としたビジネスは日本では難しくなるのだろうと思います。