それは会議中であった。
僕は当時アメリカの大型バイクの会社に勤めていて連日のように恐るべき長期滞在型会議の連続であった。
朝9:00~深夜12:00まで「ぶっ続き会議」その後議事録書いて深夜3時に帰宅。それを5日間繰り返す、なんてざらの日々を過ごしていた。
会議のテーマは「Harley Davidson 100周年記念行事」についてだ。なんでもジャンボジェットを3機チャーターしてディーラーの家族全員ラスベガスに連れていく・・・・なんて事を言っている。全く何でも大がかりな事が好きな会社だ。
とその時、美帆からMAIL が着た。
「あの犬に決めたよ。今日来るよ。」
そうか!決めたか。ついに決めたか!
ジャンボジェット3機が編隊を組んでラスベガスへ向かって飛んでいる風景から、あの犬が家にやってきて一緒に海岸で遊んでいる風景に僕の前頭用知性のイメージは変化した。
「名前を決めよう!今夜は家族会議だ」
あいつは「毛がビーン」と立っていたから「ケビン」がいいな。
スコットランド生まれだから「ケビン」て名前がピッタリだ!
そうだスコットランド生まれだから、スコッチをバーで引っかけるような粋な犬 「ケビン」「ケビン」決まり 決まり これはいいな!カッコいいな!クールだぜ!ケビン!・・・・
僕の頭からはジャンボジェット3機の轟音やラスベガスの喧騒は全く消えた。
この日ばかりは素早く帰宅してドアを開けた。
「ただいま」
「パパ ハチベイがまたおシッコした!」と美帆。
なに?ハチベイ?
「 誰? ハチベイ?」
家にはそんな子はいないぞ。
「この子はハチベイにしたよ。」
「だめだよ。かっこ悪いよ。どうしてハチベイなんだよ?スコットランド生まれのわんこなんだぞ。それよりパパが考えた良い名前があるんだ。」
「ケビンにしようよ。毛がビーンと立っていてスコットランドのバーで一人で粋にスコッチウイスキー引っかけているようなクールな奴。それがケビンなんだよ。どう?」
「だってハチベイとよぶと来るんだもん。」
「ハチベイ」「ハチベイ」
そのケア-ンテリアはツカツカツカ フローリングに響き渡る爪の音とともに登場した。
「俺を呼んだか?」
なっなんだよ その気になっているジャン!
「おまえはスコットランドの男前の犬ケビンだよな。そのほうがカッコいいだろう。ハチベイなんてかっこ悪いよね。」
「だいたいなぜハチベイなんだ?!」
「それはね 水戸黄門に出てくる「うっかり八衛」からとったんだよ。と美波
ほら うっかりどこでもシッコするでしょう!
それでいて憎めないところが 雰囲気 ピッタリ!!!
ね!ハチベイ」」
「ハチベイ ハチベイ」娘が呼ぶと嬉しそうに尻尾を振ってくるではないか。
「ケビン ケビン」僕が呼ぶと怪訝そうな顔をするではないか。
「ほらね!ハチベイがいいんだって云ってるよ」
娘二人に押し切られてしまった。
ここに僕のイメージのスコットランド出身のどこかクールで男っぽい「ケビン」はどこかに行ってしまった。
「ケビン」にしとけばとそのあと僕は悔やむのだった。
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