カリスマ店長の戦略
いつかこれはお話ししたいなと思っていました。
僕がGIVENCHY JAPON で働いていた時代の経験です。
当時GIVENCHYは日本橋三越に大きな店を持っていました。その店の店長は鈴木さんと言うラグジュアリーを売るにふさわしい女性でした。この方にラグジュアリーブランドを売るという事は、どうい
う事かと二回にわたり教えられた経験をお話しします。彼女は接客も顧客管理も優秀で固定客を数多く持たれていました。
まずは店長会議での出来事です。
全国から店長が参加する年度初めの営業会議で教えられたことです。ブランド全体の戦略やイベントの年間のスケジュールを説明して店別の販売について議事が移りました。「それでは各店長は各ショップの目標」を発表して下さいと各店長に依頼しました。一般的な答えが多いのですが、予算の達成 固定
客を増やす 細やかなアプローチ など当たり前の目標が出てきて個別の販売数字の確認を行って行くのです。そして鈴木さんの出番がやってきました。
彼女はホワイトボードに書き出しました。書かれた文字は四文字「美白美肌」。大きな白いホワイトボードに四つの漢字が並びました。僕は可笑しかったのですがそれをこらえて聞いてみました。
なぜ、美白美肌なのかと。
彼女は説明してくれました。私たちはお客様に商品を売るのではなく、これを着ると自分がもっと美しく素敵になる想いを販売しているのです。その美しい商品を販売する私たちは、商品と同じように美しくなければお客様には商品の魅力は伝わりません。ですからまずは、自分自身を磨くこと。つまり美白美肌が大切なのです。
わかりましたか真海さん?
とチャーミングに説明してくれました。
今考えると、お客様の目線から魅力という事を考えると鈴木さんの美白美肌は全く正しいと思います。予算達成や顧客確保も商品の魅力が伝わらなければ意味がありません。僕らはあまりにも営業という枠の中だけで数字を捉えていますが、数字は現象であって現象を起こす要因は営業の枠の外からブランドの魅力を考えていかなければいけません。商品の魅力の根源はGIVENCHYというブランドへの憧れです。その憧れを伝えるために周りにプレスがあってイメージを発信しています。そして相応しいショップがありその中で直接コンタクトするのが販売員なのです。ですから販売員はその商品と同じように魅力的でなければいけません。
つまり「美白美肌」は当たり前の答えだったのです。
もう一つの教えられたこと。お客様からクレームが三越のバイヤー席にかかってきました。高価なGIVENCHYのニットが一回の着用でほつれたという内容です。百貨店にとっても重要な顧客でしたので大きな問題になり担当だった僕はお店から呼び出されて対応を迫られました。
鈴木さんにこのことを説明して、無理な販売ではなかったかの確認をしましたが彼女は、「全く大丈夫ですよ。心配しないで」の一言です。お店のバイヤーと顧客担当の方と打ち合わせをして、お客様が
店にいらっしゃる日程も決まりました。
その日が来ました。そのクレームで怒っていたお客様は彼女を見る、急にニコニコ笑顔でお店にいらっしゃるではありませんか?彼女はいつものように「こんにちは。○○様。お待ちしていましたよ。」いつもの笑顔で御迎えです。お持ちになったニットをみてレースピンで器用に修正してしまいました。その上に何と新しいコレクションまで売ってしまったのです。これにはお店の人も僕も驚きです。
お客様は鈴木さんのファンでありブランドのファンだったのです。ブランドはそのもの自体への憧れが大きな魅力ですが、その魅力的なブランドをお届けする人もまた同じように魅力的でなければいけません。ブランドは人と人の絆を強めることが出来るのです。
企画に携わっている皆さんはその「魅力」が本当にお客様にブランドとして届いているのかもう一度チェックしてみてはいかがでしょうか?
「売れる」事がブランドとは思わない。
「慕われる」事がブランド。
棚田豊
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