登山家ジョージ・マロリーは、ニューヨークタイムスの記者に
「なぜ山に登るのか」と聴かれて「そこに山があるから」と答えたのは有名な話である。
野口健はなぜ山を清掃するのだろうか?
しかも命を奪われるかもしれないエベレストのゴミをなぜ彼は
清掃するのだろうか?
クリスマス講演での野口健の話しを伝えたい。
初めてのエベレストでの体験だ。
メディアはエベレストの綺麗な画像しか紹介しないが実際は行
ってみると、自分が見た事も聞いた事もない驚愕の姿がそこに
あったそうだ。それは死体が混ざったゴミが放置されている当たり前の風景だ。シェルパの人に言われたそうだ。「日本人が
一番ゴミを捨てて行く。お前達はなぜこんなにゴミを捨てて行
くのか」と聞かれて彼は驚いた。そんな事は事前の調査や情報では何も入っていない。ところがエベレストに登頂して行く道程で確かに日の丸の印のゴミが多い事を実感せずにはいられな
かったそうだ。重量が重ければ遭難の危険が有るので、不要な
物は途中で捨てて行くのだろうが、高所で捨ておかれたゴミは
決して下山する事は出来ないのだ。優先すべきは命を持ち帰ら
なければ行けないのだから。しかし、これで野口健は決心した
「日本人として恥ずかしいことはしたくないので、ゴミを持ち
帰る事をやる」と。これが単純明快な彼のゴミをエベレストか
ら清掃すると決めたきっかけだ。
この話を聞いて驚いた。清潔で道徳心が高いと世界中の国から賞賛されている日本人がエベレストでは「ゴミ捨てのNO1」だ
ったとは!推測するに命を守る為の対応策として、安全の上に
安全を重ねる為に装備をどこの国よりも多く持って行くのでは
ないだろうか?その為にゴミ化して放置されてしまうのではな
いだろうか?そう思っていると野口健は富士山のゴミの実態を
話してくれた。
国立公園の富士山の樹海の森を調査すると驚くべき光景だったと。多くのゴミの不法投棄が点在しており、その中でも使用済みの注射器が山となって不法投棄され独特の嫌な臭いが充満し
ていたそうだ。見えないところで誰も知らない予期できない事
が現実には行われている事があり得るのだ。
野口健は富士山の清掃活動もボランティアとして活動を始めて
10年近くになる。4年目でやっと全国からボランティアが集
まり今では富士山の5合目以上ではゴミが見当たらない程綺麗
になり、ゴミを捨てては行けない空気感が生まれてルール化したそうだ。最初の3年間は地元との利害関係が一致せずにこのボランティア活動は困難を極めたそうだ。その苦しい時に聞こ
えてくるのが、初めてのエベレストでシェルパに指摘された「日
本人はゴミを一番捨てる」といわれた言葉だという。
エベレストは人の命を奪う。それを守るだけでも大変なのに彼はその上に、誰もやらない「清掃」までエベレストで行っている。彼だけが持っている魅力価値はここにある。
インタビューで次の夢は何ですか?とよく聞かれるそうだ。
「来年も生きている事です」と彼は答える。つまりエベレスト
に登る事自体が「生死」を意識しているので正直に答えるのだ
が、記者はいつも困った顔をするそうだ。
野口健は少し悲しそうな顔をするときがあった。
その理由を最後の言葉が教えてくれた。一緒に自分とエベレス
トに登った仲間は何人も死んでいると。彼は背中に大きな荷物
を背負って黙々と山を登り続けているのだ。
高倉健さんと野口健さんがダブって見えた。
「健」つながりで?いや、古い男の美学だ。
小泉進次郎も選挙でコメントしていた。
「古い本当の政治家になりたい」と。
2015年 古い男の時代なのだ。
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