おばあちゃんは麻雀が好き

朝、近所に犬の散歩でよく出会う2人ずれのお婆さんの仲間がいる。いつもジョンという老犬といつも一緒だ。関西出身の方なので会話がいつも明るくて楽しいのだ。

カンタベリーの黒いジャージの上下でハチとリュウと散歩してお会いするとボケと突っ込みの会話が始まる。

 

「今日はいつもより男前やな」

「ほれぼれするで。」

「ハチも真っ黒やで。」

「親子違うか。」

「人間と犬は親子違うで。」

「白い犬の名前はなんやったかな?」

もう何回教えただろう。

「リュウですよ。」

「そやそや リュウやな。」

「黒と白でかっこいいな。」

「そやな。」

 

この片方のお婆さんとばったり近くのスーパーでお会いした。朝の散歩で会うときよりは綺麗に化粧もお洒落もして買いもの中だった。

「こんにちは」

「あっハチのおとーさん」

「買い物ですか」

「これから勝負やねん」

 

その勝負が麻雀だ。

近くの公民館で10名ほど集まって麻雀大会を月例で開催しているそうだ。今日はこのお婆さんがおやつを買ってくる担当で買い物をしているそうだ。どうやら2卓をお婆さん8人が囲んで「ポン」「リーチ」「ロン」とかをやっているらしい。そのお婆さんは前回は買ったけどあまり同じ人ばかりが勝つと他の人が面白くなくなるので適当に買ったり負けたりが大切なんだそうだ。ところで、おじいさんはいなくてお婆さんだけの麻雀大会だそうだ。

 

中目黒のクライアントの打ち合わせを午前中に済ませて、お昼を商店街にあるいつもの天婦羅屋さんで取っている時の事だ。この天婦羅屋さんのお昼はお刺身と天婦羅のセットがお勧めだ。天婦羅は揚げたてで油がいいのだろう、あっさりして上品だ。お刺身は夜のメニューの為に築地から仕入ていると思うがこれがまた量は少なくても味は確かなものを小皿に盛ってくれる。お米も白くて炊きたてでホクホクして僕は大好きなお店の一つだ。

カウンターに座ると僕の横に二人ずれのお婆さんが昼食中だった。お元気そうに煮魚と天婦羅のセットを美味しそうに食べながらおしゃべりも楽しそうだったので、ついそのおしゃべりに聴覚を集中させて聞いていると、

「あなたも参加しなさいよ。楽しいわよ」

「覚えるのたいへんだから。」

「大丈夫よ、私が教えてあがるから。」

「もう覚えられないし、考えられないわよ。」

「そんなことないわよ。」

僕に相槌を求めた。

「ねっ、お兄さん!」

 僕はすでに50歳を超えているのだがこの二人から見るとまだお兄さんなのだ。

「何に参加するのですか?」

 「麻雀なのよ。」

 「友達の家に10人くらい集まって2卓囲んでやるのよ。」

 「2抜けが決まりごとなのよ。」

 「あなたも麻雀やるの」

 「はい。年に3回程会社の仕事仲間ではなく、犬友が集まってやりますよ。」

 「それはいいわね。私達はお菓子を食べながら集まってやるのが楽しいのよ。昔は賭けていたけどね。それでこの人を誘っているの。」

 「なるほど、そうですか。是非、おやりになった方がいいですよ」

 「脳は2種類の機能があり、流動性知性と結晶性知性といいます。記憶を司るのは流動性知性ですがこのピークは18歳と言われています。結晶性知性は物事を考えたり創造したりする機能です。この機能は年齢をとればそれだけ経験と知識が豊富になりより強くなるのです。それは手先を動かす事や考える事や新しい事にチャレンジする事、これが大切なんですよ。ですから麻雀は手を動かすし考えるのでいい事だと思いますよ。」

 「そうなのね、だんだん麻雀がうまくなるのはそのせいね。」

 「そうです。結晶性知性が高まっているのです。ピカソも年齢と共に表現力が高まっていきましたね、その力が結晶性知性なのです。」

 「ほら、この方もいいとおっしゃっているからやりましょうよ。」

 

やはりお婆さんは麻雀が好きなのだ。

 

そういえば学生時代に「平安」という雀荘に友達と通っていたときがある。

その雀荘で役満を出すと「役」「名前」「日時」を書いて張ってくれるのだ。

そこに行くといつも麻雀を打っている80過ぎのお婆さんを思い出す。お婆さんのために、その卓は台が高くしてあり「掘りごたつ」の様にこたつ布団も掛けてあった。そのお婆さんのメンバーは知人らしいがいつも違うメンバーだ。僕らより先に初めて僕らより長く麻雀を打っていた。僕は一度トイレで一緒になった方に聞いてみたことがある。

「お婆さんは強いんですか」

「強かよ、ぜんぜんボケとんしゃれんけんね」

お婆さんのマージャンは強いのだ。

 

 

10名ぐらいのグループである。

2卓囲む

2抜けである

お爺さんはいない

お菓子を食べながら行う

定例化している

麻雀以外にも別のグループがある

 

疑問が出てきた。

なぜお爺さんは入れてもらえないのだろう?

今後の研究課題にしなくては。

 

さて僕は近くのジムに通い出して6カ月が過ぎた。

ここでもお婆さんのパワーに驚いているのだ。いろいろなレッスンがあるのだが、お婆さんに一番人気は「アロハダンス」である。お婆さんは、少し派手目のお化粧をきちんとしてアロハドレスを着て集まっては大騒ぎしている、昔でいうところの「黄色い声」が「オレンジの声」くらいにはトーンダウンしているのかもしれないが楽しそうなのである。

 

「あなたこのドレスどこで買ったの?」

「まあ可愛いわね!花柄のプリントが素敵」

「私も欲しいわ」

「貴方のこのバッグいいわね!」

「貴方のも素敵よ」

こんな会話がいつも始まる。

 

もう一つの人気プログラムは優しいイケメンお兄さんがインストラクターを務める「アロマエアロビ」要するに軽いダンスのレッスンである。ここのお婆さんは、レオタードやエアロビ用のユニフォームをシャープに着こなしてここでも会話は華やかである。

もちろん「筋肉質系」のお婆さんグループである

 

「この前ね、先生にターンを教わったのよ」

少し自慢している。

「まあ、いいわね、個別レッスンがあるの?」

ジェラシーである。

「休憩のときに教えてくれたのよ」

「前列にいないと駄目よ。」

「もう少しはやくこないと駄目ね」

 

うーん。年齢は関係なく「可愛い」に感動したり共有したり、若いイケメンのインストラクターに個人指導された人に「ジェラシー」したり女性の本質が全く衰えていない。

また、304050代の色んな年代の人と年齢を感じさせないコミュニケーションが取れている。その会話の話題は変わらないのである。

女性が男性よりも長生きする理由はここなのである。

 

この二つのグループに両方とも参加されているお婆さんもいる。

 

お婆さんは何歳からお婆さんなのだろう?

 

黒木瞳さんは50歳の前半だがいつお婆さんになるのだろう?

 

「女の子」「少女」「娘」「女性」「アラサー」「おばさん」「アラフォー」「アラフィー?」「お婆さん」 おばさんとお婆さんの間にもう一つ大きな「かたまり」があるのでなないか?

 

そこが「美」「健康」「アンチエイジング」「カルチャー」の大きなマーケットではないのだろうか?